どうしても売上を上げたい、高く売りたいがために、バレないであろうと思ってつく嘘は、消費者を混乱させ、ひいてはジュエリー業界に不信感を抱かせることになります。
消費者からの質問で、間違いセールストークが幾つも明らかになっています。 |
「美しく輝くダイヤの条件は4Cだけでなく原石の素質にある」という論理矛盾 |
「美しく輝くダイヤモンドの条件は、ダイヤモンドを評価する4C(カラー、カット、クラリティ、カラット)だけでなく、原石の時点で輝く素質を持っていなければ、その後どのようにカットされたとしても、最高の美しさを持つダイヤモンドとは言えない」というセールストークが、ある有名店のホームページに書いてあります。
原石の時点で輝く素質というのは、カラーとクラリティの優れた原石であるということでしかありません。
悪い原石からはどんなに良くカットしてもカラー・グレードやクラリティ・グレードは悪いままです。カットによってカラー・グレードやクラリティ・グレードが変わることはありません。
ただ、原石の端の方にある内包物を避けて、うまくカットすれば、その内包物が入ったままカットした場合より、良いグレードになります。その代わり、サイズ、カラットは小さくなってしまいます。
研磨業者は、どのようにカットすれば、その原石から最大の利益、つまり最高の4C評価を得られるようになるか考えてカットします。
全く何の内包物も無い原石が奇跡的にあったとすれば、研磨業者は歩留まりの悪いトリプル・エクセレント・ハート・アンド・キューピッド(3Ex H&C)にするよりも、、なるべく大きなカラットになるようにVery
Good位のカットグレードにとどめておくかも知れませんし、ラウンドブリリアントカットにしないかも知れません。大きくて綺麗なことで世界的に有名な宝石というものはラウンドブリリアントカットではありません。
研磨して無くなってしまった部分がいかに綺麗なものであっても、それを証明することは出来ませんし、買う側にとって何の価値もないものです。
ダイヤは研磨されて出来上がった状態で評価されるしかありません。その評価システムが4Cなのです。
この有名店のセールストークの中で正しいのは「同じ4Cの評価を受けたダイヤモンドの中でも、トップクラスのみを選別 」という箇所です。
同じVS2と評価されるダイヤでもVS1に近いものもあれば、SI1に近いものもあります。VS1に近い方が良いのは言うまでもありません。
1個1個きちんと見て、良いものだけを仕入れて売る。それこそが良心的な宝石店の姿勢です。
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「大量仕入れだから安い」という嘘 |
「大量仕入れだから安い」というのは、いかにももっともらしく聞こえます。
衣料品や電化製品などの工業製品では、固定費が一定ですから、確かに作れば作るほど損益分岐点が下がり、利益がでるのですから値下げ出来ます。
それではガソリンなどの石油製品はどうでしょうか?需要の伸びに原油生産が追いつかないと途端に価格が上昇します。
ダイヤモンドなどの宝石も同じことです。生産量(採掘量)が同じペースだとすると、需要が増えると価格は上昇してしまいます。石油と同じように増産すればいいのではないかという意見もあると思いますが、そうはうまくいきません。
まず、増産すれば色々なグレードの石が生産されます。日本人が好むような高品質の石だけを増産するわけにはいきません。売れない石が増えれば、それは安く買いたたかれてしまいます。そうすると高品質の石がたくさん売れても、全体としては儲からなくなるので、増産などせず、むしろ多少抑制気味に生産した方が得だということになります。
そういう状況で、大量に買おうとすれば、当然他人より高く買わなければならなくなります。
宝石を安く買うには、自分の顧客が欲しがるものを、多くの取引先から少しずつ買っていくことです。これならロスが少なく、結局安く売れるとことになります。特に売り手が仕入れ資金や手形決済資金のため現金を必要としているときならば、いつもより安く買うことが出来ます。
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「当社の取り扱うダイヤモンドはすべてヴァージンストンです」という嘘 |
婚約指輪として買われることの多いダイヤモンドですから、縁起ものでもあり、一度でも他人が身につけたものを買いたくないという気持ちはよく理解できます。
しかしヴァージン・ダイヤと中古ダイヤの区別は誰にもできません。
質屋やリサイクルショップなどで買えば中古品であることを認めて買うこととなります。だからといって一流店で買えばヴァージンストーンである という保証は何もないし、証明のしようがありません。
GIAであれ、中央宝石研究所であれ、どんな鑑別会社にそのダイヤを持ち込んでも、ヴァージン証明をしてくれません。
原石を研磨している工場で研磨しているところを見て、出来上がったばかりのダイヤを買わない限りヴァージンストンを確実に入手することは不可能です。
いったんリサイクル・ダイヤが業者の手に渡ってしまえば、ヴァージンダイヤであろうとなかろうと、全く区別されることなく、ティファニーにもミキモトにも卸されるのです。
ティファニーやブルガリなど世界の有名宝飾店がヴァージンダイヤを取り扱っているという宣伝をしているでしょうか?ヴァージンストンであると言って販売している店はどの様にして証明できるのでしょうか。見分け方を説明して欲しいものです。せいぜい、自社の保証書にヴァージンストンである旨の(証明不可能な)記載をすることしかできないはずです。
世界中のダイヤモンドが集まるベルギーやイスラエルの企業でも、さまざまな流通ルートから仕入れたものをそれぞれの消費国に向けて仕分けし販売しています。
その中にはもちろん原石からカットしたもの、世界中から集めた再販品、リカットされたダイヤモンドなどが混じっているのです。ですから原産地から直接仕入れてきたからといって、ヴァージンダイヤを買ってきたことにはなりません。
実際、世界中で流通しているダイヤモンドの30%前後は再販ダイヤモンドであると推定されています。
しかし、これこそがダイヤをはじめとする宝石の最大の特長なのです。
ジュエリーは宝石と貴金属枠から作られています。枠の場合、デザインが時代と共に古くなり、使っていればキズもつきます。しかし宝石は(真珠、オパールなど一部の例外を除いて)通常キズもつきにくく、枠を外して新品の枠に止め替えれば、新品のジュエリーになります。リフォームすれば何度でも新品に甦る。これが宝石の財産性です。
特にダイヤは10年使おうと100年使おうとダイヤ同士を擦り合わせない限り、傷が付きませんので輝きが変わりません。枠から外せば素材としてのダイヤに戻ります。研磨したばかりのダイヤも100年使ったダイヤも同じ価値です。
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「GIA鑑定書の方が日本の鑑定会社の鑑定よりも厳しく正確である」という嘘 |
ダイヤの鑑定に使われている4Cによる評価システムは、アメリカのGIA(Gemological Institute of America)が開発しました。(注)
そして、このシステムに基づいた教育を実施し、研修を終了・合格した人たちはGIA GG(Graduated Gemologist)として認定され、世界各国の宝石業界で活躍しています。
そのうち一部の人はアメリカGIAのグレーダーとして4C評価に携わっていますし、日本の鑑別会社で鑑定を担当しています。
同じ教育を受けた人たちが、アメリカでは厳しい鑑定をし、日本では甘い鑑定しかしていないということは、どう考えても不思議です。
まず、カラット(重さ、正確には質量)は、電子天秤で計測しますから、どこで測っても器械の誤差以外に人為的な差は生じません。
カットの計測も、現在ではGIAの評価ソフトを組み込んだサリンまたはオギという器械で行なわれますので、これも器械の測定誤差以外に人為的な差は生じません。
グレーダーが眼で見て鑑定するカラーとクラリティが問題になります。
カラーについては、宝石鑑別団体協議会(AGL)に加盟している鑑定会社はGIAに依頼して作ってもらったカラーマスターストーンと較べて鑑定しますから、差が出てくる可能性としてはボーダーライン(たとえばFとGの)に極めて近いものしかあり得ないはずです。ボーダーライン上の石を良く見るか悪く評価するかは、グレーダーの主観的な判断に依存する面が多く、鑑別会社間の違いではありません。
クラリティ・グレードについても、前述したとおり、同じ評価システムを学んだグレーダーが、違った結果を出すことは考えにくいはずです。
実際、当社が仕入れているダイヤの中には、GIA鑑定書が付いているものも含まれていますが、そのダイヤを中央宝石研究所に鑑定に出すと、GIAと全く同じ鑑定結果になっています。(ただし、カラットは日本では小数点以下3桁ですがGIAでは小数点以下2桁の表記です)
ただ、日本以外の各国では1国1鑑定機関が普通です。日本のように宝石鑑別団体協議会(AGL)に加盟している鑑別会社が22社(2011/4/18現在)もあり、非加盟会社も含めると100社近くになるというのは異常です。
鑑別会社も営利企業ですから、顧客である業者に迎合する鑑定をしている会社がないわけではありません。特にAGL非会員の会社は、AGLの規制を受けませんから、GIAのグレードより甘い結果を出したとしても、誰からも批判されるわけではありません。このような鑑別会社の鑑定書については、要注意だと言えます。
しかしすべての鑑別会社が悪いわけではありません。特に90%以上を占める大手2社の信頼性は業者に高く評価されています。むしろ大手鑑別会社は、他社より甘いと言われることを避けるために、厳しくチェックしています。
評価システムを最初に作って、その鑑定を世界中の業者が利用しているという実績がGIAに対する安心感につながっています。日本の鑑定書が外国では流通していないという点が信頼性を低くしていますが、正確性で劣るものではありません。
GIAは世界各地に支店を開設していますが、2010年頃から輸入業者の間ではムンバイ(インド)支店の鑑定には疑問が上がっています。公表はされていませんが、AGTジェムラボラトリーや中央宝石研究所では、たとえGIAの鑑定が付いていても、同一グレードでは出さないという事態が起きています。
販売業者には、鑑定会社の鑑定をそのまま信じるのではなく、自分自身でチェックして間違いがないと確信できるものだけを販売するという姿勢が求められます。
(注)ダイヤモンド評価システムはGIA方式ばかりではありません。GAGB(英国宝石学協会)、HRD(ダイヤモンド・ハイ・カウンシル)、AGS(米国宝石協会)、SDN(スカンジナビア・ダイヤモンド専門用語委員会)などが、それぞれ独自の評価基準で鑑定しています。
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