-ジュエリー業界へのささやかな提言-


雪印問題を他山の石として 2002/1/29
雪印は一体どういう会社なのでしょう。昨年夏に雪印乳業が返品された牛乳を詰め替えて新品と偽って出荷していたため食中毒事件を起こして管理検査体制を強化したはずなのに、その後もぼろぼろと不祥事が出てくるし、今度は雪印食品が海外産牛肉を国産牛肉と偽って補助金をせしめようとしたかと思えば、さらに北海道産を熊本産と偽っていたなど、グループ全体の体質が腐りきっているとしか思えません。我が家でも昨年夏からは雪印製品は一切買っていません。偶然のミスで起きた事故ではなく、いわば確信犯的に不正行為を行なっていたからです。それらは結局の所目先の利益のために行なったことです。雪印の信用は、それこそ雪の如く溶けてしまいました。
翻って、私たちの商売を考えてみると、目先の利益、その場の売り上げを追求する余り、消費者に対して伝えるべきことを伝えないまま売ってしまうことはないのでしょうか。売った時計やテレビに不良品が発生した場合、お客はその製品を売った時計店や電器店が悪いとは考えません。メーカーが悪いのだと思ってくれます。ところがジュエリーの場合に不良品があれば、売った小売店が悪いと考えます。それはジュエリーがノーブランド商品だからです。お客様は小売店を信用して買ったにもかかわらず、その信用を裏切られたら、もうその店では買わなくなるでしょう。
以前にも書きましたが、私たちの真の顧客はリピーターです。そのお客の信用を失うような行為は絶対してはならないと肝に銘じなければなりません。
しかし実態はどうでしょう。大きい小売店では問屋やメーカーからの委託商品をそのまま陳列しています。本当にきちんと検品しているのでしょうか。儲けるために、1 円でも安い店をジュエリータウンおかちまちの中を探し回っている小売店も大勢います。そんな姿を見ると悲しくなってきます。確かに現在の恐慌を生きていかなければならないのですから大変です。
こんな状況の中でよく売れているお店の経営者にお聞きすると、「うちはそんなに利益率をとらないんだよ。だから安いと言って口コミでお客が広がるのだ」と言われます。バブルの時に、「せっかく良いお客を捕まえたのだから、2 倍や3倍の利益じゃかったるくて、やってられないよ」と言い放って私を呆れさせた小売店は、もう数年前からジュエリータウンおかちまちで見かけることはなくなりました。
信用こそ私たちの財産です。良いものを見極める眼を常に養うとともに、宝石の弱点もきちんと伝えていき、世の中の常識から見て適正な利益をいただくことが、回り道かも知れませんが、結局は生き残っていく術ではないかと考えています。


繁盛する店とは 2002/1/12
懇親会の予約をしようと豆腐と湯葉の店「梅の花」に電話しましたが、何度かけても繋がりません。仕方なく店まで出向いて「電話が外れてるのではないか」と尋ねると、予約の電話がひっきりなしにかかるので繋がらなくて申し訳ないと恐縮していました。予約したいと思ったいくつかの日はすべて満席でしたので、すごすごと引き揚げました。昨年12月に出来たばかりの時、人に連れて行って貰って美味しかったので、新年になって家族で食べに行き、家族全員からもう一度食べたいと喜ばれた所でした。1 人あたり5000円で料亭並みの味と雰囲気ですから流行るのは当然です。
帰りに街をぶらついていると「洋服の青山」があった場所に「THE SUIT COMPANY」という洋服店が開店していて、明るく洒落たブティックといった雰囲気だったので覗いてみました。店員はお客に「いらっしゃいませ」と言わずに「こんばんは」と挨拶するので、私にはちょっと違和感がありましたが、若い人向けにはこの方が良いのかなと思いました。スーツが 19,000 円と 28,000 円の2プライスという低価格で分かりやすい設定でしたし、値段の割には良い商品かなと感じました。品物を手にとっても店員が近寄ってきません。これは精神的にとてもいいなと感じました。デパートですと見ているだけですぐに店員が近寄ってきて「何をお探しですか」と訊かれるので、ウィンドショッピングの時はすぐに帰ってきてしまいます。店内を歩いていると客数も多く流行っていました。ただ体型が若向きなので私には合わず、こちらもすごすごと引き揚げたのでしたが。
たまたま業種は違っていても繁盛している店を2店続けて見ていると、共通する点が多いのに気付きます。価格が品質に較べて割安であること。安売り店と言うより高級店の雰囲気であること。店員の教育がしっかりしていること。店のコンセプトが明確であることなどが挙げられます。
店のコンセプトについて説明すると、「梅の花」は「和風料理」ではなく「豆腐と湯葉料理」ときっちり範囲を決めています。「THE SUIT COMPANY」では「紳士服」ではなく「若者向け紳士服」にターゲットを絞っています。つまりマーケティングで言うマーケット・セグメンテイション(市場細分化)あるいはプロダクト・セグメンテイションを行っているのです。
百貨店の凋落が著しいのですが、その原因は一つには価格競争力、もう一つは顧客ターゲットを絞り込めないことではないかと考えています。商品が有り余っている現在、消費者は自分だけの商品を求めているのに、誰にでも合いそうな無難な商品は買ってくれません。
翻ってジュエリー業界はどうでしょうか。小さな店が大きな店と同じような商品内容では大きな店に勝てるはずがありません。特色を出すことしか生き残る道はないのに、商品カテゴリーを絞るとお客が減るのではないかと怖がって今までの行き方を続けている店が大半ではないでしょうか。かつて3兆円市場といわれたジュエリー業界も今はその半分しかありません。それにも拘わらず業者数は半減していませんから、半分になるまで自然淘汰が進むのは明らかです。淘汰されない側に立つためには、繁盛する店のノウハウを取り入れるしかないでしょう。


「商品」を売るより「感動」を売ろう 2002/1/9
今年の新年会の挨拶でも相変わらず「不況で」という言葉が出てきます。私はこの頃好況や不況をGDPで測るからいけないのではないかと考えるようになってきました。商売をしていない息子達からは「不況だから」という言葉は聞かれません。当社もご多分に漏れず不況に苦しんでいるひとりですが、これは過剰債務の存在が原因です。過剰債務の問題と販売方法の問題をごちゃ混ぜにしているのではないでしょうか。不況なのに何故高級ブランドものが飛ぶように売れるのでしょうか。「不況だから」売れないのではなく、「売り方を間違えているから」売れないのです。
消費者はその宝石が気に入って買うのではなく、その宝石を身に着けたときに周りからどう思われるかを思い描いて買うのではないでしょうか。私の店でよく光るダイヤ指輪を買って下さった方が再度買いに来られた時こう言われました。「あの指輪を着けて披露宴に行ったら花嫁さんよりも私の指輪にみんなが注目してくれて、視線をバシバシ感じましたわ」その感動、優越感をまた味わいたくて買いに来られたのでした。私はその人に商品そのものよりも感動、満足感を売っていたのでした。
高級ブランド品を買う人が同時に100円ショップやディスカウント店で商品を買っています。「一人内二極化」現象と呼ぶ人もいますが、その原因については分析されていません。私はこう考えます。100 円ショップやディスカウント店で買う商品は感動商品ではありません。高級ブランド品は感動商品です。感動する商品には大金を払うが、そうでない商品は徹底的にケチるのではないかと思います。
たとえが悪いのですが、悪徳商法で買わされる人がいます。よく考えると彼らもその感動を売っているのです。「この指輪を買っておけば、彼女が出来たときにプレゼントすると喜ばれますよ」というセールストークに、若い男性は彼女に指輪をプレゼントするシーンを思い描いて(実際はまだ彼女がいないにも拘わらず)ついつい買ってしまうのではないでしょうか。
「そのご予算ならこれがお得ですよ」とか「よくお似合いですよ」などというセールストークではものは売れません。だって消費者はもう有り余るほど「ご予算にあった」「よく似合う」ものを持っているのですから。
これからは商品販売業ではなく感動販売業に転換しようではありませんか。それにはそれにふさわしい良い商品を取り揃えると同時に、感動のシーンを消費者に想起させるシナリオライターとしての腕を磨かなけばならないでしょう。


指輪JISサイズ切り替えは第2の中宝研問題 2002/1/1
日本ジュエリー協会(JJA)は2002年度に予定している新JIS規格指輪サイズへ切り替えるため12月21日にウェディングリング・メーカー大手に対して説明会を行ったが、影響が大きすぎるとして反論が相次いだということです。ウェディングリング・メーカーでは反対の署名活動をして年明け早々にも日本ジュエリー協会に届ける予定です。JJAではISO指輪サイズがJIS化されたのに伴って、1996年7月から従来の規格からの変更を検討してきたのですが、もっぱら技術面ばかりを考えてきたため、切り替えに伴って旧サイズ製品をどの様に処分するかといった業界へのを考慮してこなかったことが原因です。
ダイヤや色石のついた普通の指輪はサイズ直しをすることが前提で作られていますから全く問題はありません。しかし結婚指輪として使われる甲丸、平打ち、カットリングなどはサイズ1番毎にあらかじめ作られ、大部分の製品にはサイズ刻印がされているため新サイズ導入とともに作り直さなければなりません。旧サイズ製品を廃棄して新サイズ製品にするには莫大な費用がかかります。ある会社では6000本の在庫があるということです。原価が1本5000円とすれば3000万円。これを溶かして作り直すのに約3割の費用がかかるとして900万円かかります。こんな費用を負担するだけの体力はどの企業にもありません。
かつて中宝研のダイヤモンド・グレーディングに問題があるとして、中宝研の認定取消処分を行いました。確かに正論だったかも知れませんが、業界に与えた影響は甚大でした。狂牛病が怖いと言って狂牛病にかかってもいない牛を焼却処分するようなものでした。きちんとグレーディングされたダイヤまでおかしいとされてしまいました。焼却処分される牛については国から補助金が出るので酪農家は損しませんが、結婚指輪の作り直しに補助金は出ません。
JJAは旧サイズと新サイズとが併用して使われると想定しているようですが、そんなことはありません。JJA が消費者に対して新しいサイズに変更になると宣伝を始めれば、まずデパートは消費者から古いものを売っていると思われるのがいやですから、納入業者にたいして製品の新サイズへの切り替えを求めます。一般の小売店も旧サイズで販売していれば、卸業者に対して返品するでしょう。本来は買い取りのはずですが、この業界では売れなければ返品するのが当然のようになっています。結局、卸業者やメーカーが負担することになります。
新サイズに切り替える理由として、旧サイズではサイズ棒、サイズリングがきちんとしていないので、半サイズ違うこともあって現場が混乱しているということが挙げられました。しかし、これはたとえばJJAがきちんとしたサイズ棒、サイズリングを作れば解決することです。
JISサイズにも良い点はあると言われています。ヨーロッパ各国と共通のサイズになること、円周でサイズが決められているので地金量の計算が簡単に出来ることなどです。しかし現実にISOサイズを使用しているのはフランス1ヵ国だけです。メリットを勘案しても、新サイズを推進するには多くの犠牲が伴います。もう一度考え直してみる時間が必要ではないでしょうか。特にウェディングリング・メーカーを加えて審議して欲しいものです。


メロンと宝石 2001/12/16
子供の頃「鉄1キログラムと綿1キログラムではどちらが重いか?」という頓知がありました。
もちろん答はどちらも同じ重さなのですが、綿1キロの方がずっと容量が大きいですね。
さて、それでは1個1万円のメロンと1個1万円の指輪はどちらが高いでしょうか?
値段は同じでも1万円のメロンは高級贈答用として使われるのに対して、1万円の指輪は若い女性のカジュアルアクセサリーとして使われることが多いのです。
またメロンはもらったらすぐに食べてしまう瞬間消費財なのに対して、指輪は1万円といえども何年も使って楽しめる継続消費財です。瞬間消費財も継続消費財も私の造語ですが、メロンは1回で食べきってしまうので1回1万円かかるのに対して指輪は何年も、ひょっとすると何十年も使うので1回あたりにすると10円とか100円にしかつきません。
ところが消費税引き上げ論議の時に必ず出てくるのが「ジュエリーのような贅沢品は税率を上げて、食料品のような必需品は税率を引き下げるべきだ」という主張です。
大根や人参のような料理材料としてしか使われない食料品は確かに必需品でしょうが、メロンやキャビアなどの嗜好性食料品は贅沢品と言っていいのではないでしょうか。
2、3万円のジュエリーは財産として買うわけではなくおしゃれの道具として口紅やブラウスと同じ感覚で買っているのです。
賢明な読者は既にお気づきの通り、その商品が贅沢品か必需品かは商品の種類によって決まるのではなく、使われ方によって決まるのです。
日本全体が貧しかった戦前はジュエリーを身に着けることだけで贅沢な気分になれたのでしょうが、経済大国になった現在ではジュエリーはおしゃれの必需品です。
税調や国会の偉い先生方も戦前の発想から抜け出して、人々の心が豊かになるような買い物を促進するような税制にして欲しいものです。そうすればきっと景気は回復しますよ。








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