-ジュエリー業界へのささやかな提言-


紛争地ダイヤモンドについて 2001/11/6
11月2日のワシントンポスト紙はオサマ・ビンラディン氏が率いるテロ組織アルカイダがダイヤモンドの売買で巨額の利益を得たことが明らかになったと報じています。このニュースを受けて、6日にはアルカイダが武器調達の手段としてダイヤを使っているとして、国連が検討を始めたとNHKテレビが報道しました。
昨年8月18日付けのNewsで「紛争地ダイヤモンドに様々な圧力」としてお知らせしましたが、いよいよ日本でも紛争地ダイヤモンドが本格的に報道される前触れではないかと思います。
ところでConflict Diamondは直訳すれば紛争ダイヤモンドですが、ダイヤそのものが紛争の種になっているわけではなく、コンゴやシエラレオネなどの内戦地域で産出されるダイヤが反政府組織の資金源になっているという意味で、私は敢えて紛争地ダイヤモンドと意訳しています。
ニューヨークのティファニーの前で行われる紛争地ダイヤモンド反対の抗議デモを報道し、さらにはジュエリー店に取材して紛争地ダイヤモンドを取り扱っているかどうか訊ねたり、米国マスコミは反ダイヤ・キャンペーンを繰り広げています。これが日本に飛び火するのも近いと思われます。その場合、狂牛病パニックでも判るようにダイヤが全然売れなくなってしまうことも考えられます。
「あなたの店のダイヤは紛争地ダイヤモンドではないという証拠を見せてください」と言われたら狂牛病ではないという証拠を出せない肉屋さんと同じです。
日本は研磨前の原石を輸入しているわけではなく研磨済みのダイヤを輸入しているのですから、それが紛争地ダイヤモンドかどうか判るはずがありません。ダイヤ1個1個に原産地証明をつけることなど理論的には可能でも実際には煩雑すぎて不可能と言っていいでしょう。
日本ジュエリー協会でもこの問題には神経をとがらしていますが、有効な解決策を見いだせないままです。
どうして紛争地ダイヤモンドが問題になったのでしょうか。
かつてデ・ビアス社がこの地域のダイヤについて支配権を握っていたときにも内戦状態だったのですが、この当時は紛争地ダイヤモンドについて何も語られませんでした。
デ・ビアス社が昨年支配権を失ってから突然紛争地ダイヤモンドの問題がクローズアップされ、デ・ビアス社は紛争地ダイヤ以外のダイヤをブランド化すると発表しています。
そしてデ・ビアス。ブランドのダイヤ表面にブランドが見える特殊処理を開発したと発表しています。
また紛争地では麻薬やルビーなどの宝石も資金源として争奪戦が繰り広げられているにもかかわらず、こちらは問題にされていません。ここに何らかの意志が働いていると考えるのが当然でしょう。
昨年、NHK「クローズアップ現代」でこの問題が放映されたとき、記者が私に取材に来たときにも述べたのですが、反政府勢力が悪であるかのような報道はおかしいと思うのです。
現在もテロリズムがいけないかのような報道がされていますが、かつてハルビンで伊藤博文を暗殺した安重根は朝鮮の英雄です。時の政府が腐敗していればそれを倒そうとする勢力が出てくるのは当然です。
テロ=悪の構図は権力者側の論理です。したがって、ダイヤが反政府勢力の資金になっているからといってそれが直ちに悪の資金であるということにはなりません。
ダイヤが反政府勢力の資金になっていても、それが100%武器購入資金になっているわけではありません。支配地域の食料調達資金にも、医薬品購入資金にもなっているわけです。
むしろ私たちとしては武器供給側の責任を声を大にして言わなければなりません。反政府勢力に大規模兵器の生産能力は乏しく、英米仏露などが兵器を供給しているのですから、ダイヤよりもそちらの方が問題だと思いますが、これが国連で取り上げられることはありません。全く不思議なことですが、これが現代の政治の実状でしょう。
日本は武器輸出国ではないのですからこうした点をマスコミに対して主張していくしかないでしょう。
関連する記事 「ダイヤモンドよ永遠に」by斉藤清 も併せてお読み下さい。


ジュエリー業者盗難の真相 2001/11/2
この所、ジュエリー業者の盗難こ被害が続発しています。店舗荒らし、事務所荒らし、置引き、車上狙いと手口は様々です。しかし共通していることは大体が外国人チームによる犯罪だと言うことです。
言葉も土地にも不案内な外国人がどうしてジュエリー業者を狙って盗むことが出来るのでしょうか。そして盗んだ品物をどうやって処分できるのでしょうか。素朴な疑問をこうした犯罪の調査を専門にしている損害保険調査員にぶつけてみました。彼が言うには、犯罪の裏に関西系暴力団の存在があるということです。国内にそういう組織がなければ密輸するしかないわけですから、考えてみれば当然です。そして事務所荒らしを計画すると徹底的に事前調査を行って、いつ実行すれば一番良いかまで判ってから実行するそうです。
盗まれるのはジュエリーばかりでなく現金、手形も持ち去られます。現金は実行犯の仲間同士で山分けされ、手形やジュエリーなどは暴力団が買い取るそうです。手形は善意の第三者が取得したように見せかけ裏書きをするために、あらかじめ一連のペーパーカンパニーが用意されているので、手形を払わないようにするためには長期間の裁判で立証していかなければならず、費用もかさむため被害者側が諦めてしまうことが多いそうです。
ジュエリー業者が持ち歩く外交鞄を狙った犯罪は業者の集まる御徒町周辺だけで起きているわけではなく、都内全域で起きています。ある時は新宿発甲府行きの特急の車内で置引き事故にあっています。ということは被害者はずっと付け狙われているわけです。
犯罪は偶発的ではなく計画的なのです。プロに対抗するには余程しっかりした心構え、対策が必要ですね。
それにしてもお金やカードをばらまかれると、自分のものでもないのに拾おうとする浅ましい根性は何とかならないのでしょうか。


加入したくなる日本ジュエリー協会にしなければ 2001/10/18
2001年5月の総会で日本ジュエリー協会(JJA)の会長が長堀守弘氏から政木喜三郎氏へバトンタッチされました。
新会長が打ち出した方針の一つに会員増強があります。理事1名に新会員2名以上の加入をお願いして、200−300社を増やそうという計画です。
現在の事業計画、組織運営のままで新規加入を図っても、一方では現会員が脱退していくことは止められません。
空前絶後の大不況では各社ともいかにして経費削減を図るかと必死です。お付き合いで入ることなど出来ません。たかだか3万円の年会費でも冗費は払いたくないのが本音です。
私は9月のJJA理事会で「入らせるよりも入りたくなるJJAを目指せ。消費者に対する啓蒙活動を盛んにして、JJA会員の店だから安心して買えるという意識を植え付ければ、小売店はJJAに加盟せざるを得なくなる。ジュエリー・デーやジャパン・ジュエリー・フェアなど年間活動を通じて啓蒙活動をすべきだ」と訴えました。
消費者はどこで買えば安心か、その情報、基準を求めていると思います。JJA会員であることがひとつの重要な指標になるようなJJAにしていけばJJAを脱退することは防げます。
その後、一部の理事からは「あなたの言うとおり」と励まされましたが、残念ながら現状では大勢にはなっていません。それでも何とか自分の目指すJJAに改革するために頑張りたいと思っています。


2001年の新年に想う 2001/1/20
昨年のクリスマス、デパートの1階にあるヤング向けブランド・ジュエリーの売り場はどこも超満員、銀座中央通りは若いカップルで溢れかえっていました。駅ビル、ショッピングセンターなどのジュエリーショップもそこそこの客の入りであったそうです。それに引き替え、一般のジュエリー店の景気はどうだったのでしょうか。
新年の挨拶で、「おめでとうございます。お互いに倒産しなくて何とか年を越せましたね」などと言っています。
世の中、不景気だ、デフレだといって自らの経営能力のなさを景気のせいにしてきてはいないでしょうか。
不景気でも金持ちはいますし、お客はいます。どこにいるのか、どうやって自分の店の客になってもらうか、それを考えるのが経営者ではないでしょうか。
ブランド・ジュエリーだけなぜ売れるのでしょうか。消費者がジュエリー業界に対して抱いている不信感の裏返しではないでしょうか。
自分の店作りをきちんとするのは当然のことで、自分の店だけでなく、業界全体の信頼を得られるよう努力していかなければ、結局自分の店に跳ね返ってきます。このことを肝に銘じなければならなりません。
特に宝石の表示がどうあるべきかを業界人全体で考えて欲しいと思います。
日本彩珠宝石研究所の飯田孝一氏が言われているように、「本当に良いものとは何か」「処理していない良さ」「処理する必要性」「処理しなくても良いもの」「処理をしない方がいいもの」「処理してはいけないもの」「取り扱ってはいけないもの」の区別をきちんとできるようにして欲しいと思います。
処理石だから絶対駄目というような白か黒かの従来型のセールストークは、逆に消費者に不信感を抱かせます。この宝石になぜ処理が必要なのか、それを説明できてこそ21世紀の宝石商だと思います。


真珠の賞味期限 2000/4/28
食品には賞味期限がある。当たり前の話である。真珠にも賞味期限があるといったら、たいていの人は「そんな馬鹿な」と言うだろうが、本当の話である。
真珠はピンク色が良いとは一体いつ頃から言われるようになったのであろう。アコヤ貝の母貝を見れば分かるとおり、ピンク色などほとんどしていない。真珠はアコヤ貝が出す成分で作られるのだから、アコヤ貝にない色が出るはずがない。それにも拘わらず、ピンク色の真珠の多いこと。誰が考えてもおかしい話である。
業界では「調色」と言っているが、実際は染色である。染色したものは色が褪める。大抵は4−5年で褪めてくる。褪めた後はどんな色になるのか。黄色や白色である。
消費者に販売するとき、この問題があることを告知して販売している宝石店は皆無ではなかろうか。せいぜい「紫外線に当てると色が褪めますから、なるべく直射日光を避けてお使い下さい」と太陽の所為にするのが精一杯だ。
買っておいて久しぶりに着けようとしたら色が違っている。騙されたと怒っている消費者は多いのではないだろうか。食品なら賞味期限の表示がなければ法律違反である。発色剤を使用したら明記しなければならない。
ところが真珠にはそのような表示はない。鑑別書にも記載されていない。普通に考えれば「処理石」の表示があってしかるべきだ。大きな力が働いてそういう表記が出来ないでいる。こんなことをしていたら真珠業界、ひいてはジュエリー業界は信頼されるはずがない。
2001年のイヤー・ジュエリーとして日本ジュエリー協会は真珠を選定した。ジュエリー業界全体が情報公開せずに販売促進だけを考えていては今後が心配だ。
日本経済は回復基調にあり、一部業種には明るい話題があると言うが、ジュエリー業界は依然として低迷している。中央宝石研究所問題、ココ山岡問題で失った信頼は容易に回復するはずがない。回り道でも情報開示という厳しい道を選ばなければならないのではないだろうか。








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