-ジュエリー業界へのささやかな提言-

21世紀のジュエリー小売店の進む道 2000/2/20
まず従来のメーカー、卸、小売りの関係から考え直さなければならないと思います。インターネットの発達で消費者は様々な情報を簡単に手に入れることが出来ます。地金相場だけでなく、ダイヤ相場も分かるようになっています。
したがって、これからの時代には、今までのような高い利益率を得ることは困難です。特に小売店はそのことを理解すべきです。
ジュエリー産業が成熟期に入った現在、ジュエリー小売店に求められるのは、販売努力よりもオリジナリティー、感性のアピールだと思います。
小さくとも個性を訴え、特定の消費者層に支持されるような店づくりが必要ではないかと思っています。
特にインターネットが普及すれば、店舗の大小、立地条件の良し悪しに左右されず、日本全国あるいは世界の消費者に自分のオリジナリティーを示せます。従来のようにメーカー→卸→小売りという一方通行の商品の流れでは卸も小売りも生き残れません。
これからのジュエリー業界はメーカーも卸も小売りも「相互乗り入れ」せざるを得ないと思います。メーカーが直接小売りをする代わりに、小売店もメーカー機能を持つわけです。
小売店がメーカー機能を持ついうことは、具体的には、デザインから発注までの機能を強化することです。
今までのように問屋が持ってきた商品の中から商品を選んだり、お客の注文する商品を問屋に頼んだり、「ジュエリータウンおかちまち」に探しに来るのではなく、自らデザイン画を描いて職人に作らせたり、自ら加工できるようになることです。もちろん、そのためには小売店は自らリスクを取る覚悟をしなければなりません。
今までのように委託で商品を借りるような形態の商売は地域一番店以外には難しくなります。
デパートの地盤沈下が著しいのも、デパートが場所貸し業になってしまって、みずから企画して販売する力がなくなったからです。
現在のジュエリー小売店もまさに同じ状態にあります。
メーカーは直接小売りしようと虎視眈々と狙っています。
今ならまだ間に合います。
多くのジュエリー小売店の前身は時計店であり、社長は時計修理技術者でした。
手先の器用さを活かして、ジュエリーデザインと制作技術を学びなおし、ジュエリー・アトリエとして再出発されることを切に願っています。

日本のダイヤの価格を下げ輸入卸価格で販売します 2000/2/3
1998/8/31付けで書いた宝石販売の考え方については、業界の会合などで折に触れ述べてきました。
みなさん「なるほど」とは言われますが、「よし、実行しよう」とは言われません。
そこで私自身が実際にやってみて成功体験を作るべきではないかと考えました。
ダイヤのように4Cでグレーディングされているものは、色石のように評価が難しいわけではないのだから、金やプラチナ・ネックレスと同じように安く売るべきだと思っています。
かつてダイヤも小さいものしか売れず、中石の値段より枠の加工代の方が高かった頃は、卸価格の2倍以上で小売りしても消費者に説明できましたが、現在のように中石が枠代の10倍以上するダイヤを売っていて、卸の2倍以上の小売り価格を付けていては、消費者に説明できません。
日本経済新聞の商品相場欄にも毎月ダイヤの価格が表示されています。消費者は馬鹿ではありません。ましてインターネットの時代には情報は世界中から集められます。かつての喜平ネックレスのような値段でダイヤを売るようにしなければならないと思います。
もうこれ以上の円高も当分はなさそうだし、株も上がり始めているこの時期に始めればタイミングもいいと思い、ダイヤ裸石の輸入卸価格での販売を始めました。

寿司と宝石 1999/11/23
「美味しいと評判の寿司屋で食べたいけど、いくら取られるか分からないからね。」
美味しい寿司をたまには食べてみたいが価格表示のない寿司屋に入ってみる勇気が出ない。結局いつもの店で食べるかデパートで注文することになる。
そこで店内に当日の定価表を張り出した店ができて、味の良さも手伝って大繁盛だという。一方、寿司をもっと大衆的な値段で提供すればお客がきてくれると考えたところがある。回転寿司がそれである。平成大不況に関係なく大はやりである。
「宝石の値段って安いのか高いのか分からないから買うのが不安だ。」
よく聞く言葉である。日本経済新聞の市況欄にダイヤの価格が発表されるようになった頃、小売業者の方から商売がやりづらくて仕方がないという不満が寄せられた。最近でも、東京・御徒町にあるジュエリータウンの卸店の店頭にダイヤの卸価格が表示されていては小売店はそんなに儲けているのかと消費者から言われて困るという苦情がきた。
スーパーで売っている刺身の値段を寿司屋の寿司の値段と比較すると、まさにボッタクリ値段である。しかし消費者は高くてもうまい寿司屋で寿司を食べたがる。吟味した食材と店の雰囲気で客から代金を頂くのである。ティファニーをはじめとする有名ブランドのジュエリーの価格は原価の十倍にもなるだろうが、お客は嬉々として買っていく。
宝石店がお客にふさわしい品物を吟味して薦めれば、お客は納得して買っていくのではないだろうか。ジュエリーの価格には、お客のTPOに相応しいジュエリーをコーディネイトする料金も含まれているのだ。お客の言われるままに品物を探しているような商売は買付け代行業に過ぎないから利益が少なくても仕方がない。
素材としての宝石・貴金属の品質と価格はオープンにして、お客にふさわしいベストな選択をアドバイスできるような宝石店がもっともっと増えてほしいと思っている。
(上野間税会連合会会報平成11年秋季号掲載)

金価格の見通し 1999/1/4
最近、金価格が下がっています。また反転するのかという質問を受けます。私はどちらかというと悲観的な見方をしています。その理由として次のことが考えられます。
まず原価が下がっていることがあげられます。かつては1オンス300ドルが原価といわれていましたが、現在は220ドルまで下がっています。
次に、欧州統一通貨・ユーロの誕生です。今まではEC各国が金準備を持っていましたが、アメリカに比べ信用力が劣るため余分な金を保有しなければなりませんでした。ところがユーロは統一通貨であるため信用力は格段に上がり、各国は金保有を大幅に削減すると明言しています。
最後に、これはだれにも語られていない理由ですが、資金移動の電子化があります。今まで戦争がある時の財産保全の手段として金が必要だと言われてきました。しかし決済が電子化されれば、亡命したり避難するときに多量の金を持って逃げる必要はありません。スイスのような国に資産を預けておき、クレジットカードで支払いをすれば不便はありません。
反対に価格が上がる理由としては次の理由が考えられます。
世界各国の経済成長により宝飾品としての需要が増大する。
同じ理由により労働コストが上昇する。
将来的に金の産出量が減少する。
こうしてみると価格が上がる理由は全部長期的に実現されることで、下がる理由はすぐに実現する、あるいはもう実現していることです。したがってここ数年間は価格が上がる理由は考えられません。
しかし万一アメリカの株が暴落しドルへの信認が崩れた場合は、金へのシフトが起こることは疑いがありません。そうならないことを祈りますが。

宝石販売の考え方について 1998/8/31
1. オープン・プライス、ノー・ブランドがジュエリーの特徴
電気製品などと違って、ジュエリー(Fine Jewelry)にはメーカー希望小売価格というものがほとんど存在しません。また、外国製品や日本のほんの一部の製品にはブランドがついていますが、日本製品のほとんどにはブランドがついていません。むしろ安物のアクセサリー(Costume Jewelry)のほうにブランドがついていたりします。
ジュエリーが嗜好性・趣味性の強い商品であるにもかかわらず、同じくファッション商品といわれる衣料品が短期的な性格であるのに反し、長期的に身に着けて楽しむために、その品質に対して極めて厳しいチェックが行われるはずです。
しかし、消費者が品質を判断するのに必要な正しい情報が十分に取れるかというと、ダイヤの4Cに関する以外、専門的過ぎて難しいと思われます。他の商品ではブランドによってある程度品質を予測できるのに反し、日本製のジュエリーではそれが出来ません。したがって消費者はデパート、チェーン店、大型店など店舗のイメージによって判断したり、新聞、雑誌、テレビなどのマスコミ広告への露出度で判断していると思われます。
こうした中で、ブランド商品も持たない、マスコミ広告も出来ない、知名度もない一般の小売店はどうしたら良いのでしょうか?
2. 自分の店をブランド化する
私は、自分の店をブランドにすることだと考えています。 ティファニーも、ブルガリも、ハリー・ウィンストンもすべてストア・ブランドとして出発しました。彼らの特徴は何でしょうか?それは、自分たちの感性、テイストにこだわった、自分たちの商品を提供しているということに尽きると思います。ティファニーはブルガリともハリー・ウィンストンとも違うし、ブルガリはティファニーやハリー・ウィンストンとは違います。
一般の小売店が大型店と同じ品揃えを目指しても勝てるわけはありません。自分が良いと思う商品、顧客の嗜好に合った商品に絞り込んで、個性を出すべきだと考えます。
3. 誰が顧客なのか?
一般の小売店にとって本当の顧客とはどのような人たちなのでしょうか?デパートの特価品売場を漁る人たちでしょうか?どのようなお客を大事にしなければならないのでしょうか?私は何度もその店で買ってくれるような人たち、言い換えればリピーターを育てていくべきだと考えています。ジュエリーは、その商品の性格上、長期にわたってアフターサービスをし、それをまた次の販売のチャンスとして捉えていくべきだと考えています。
安いものばかりを求めるお客は、決してあなたの店の本当の顧客にはなりません。特価セールがあればどこにでも行ってしまう人たちです。そのような人たちに買ってもらおうと努力して、特売のチラシを作ったりすることは無駄な努力です。
4. 品質にこだわる
電気製品であれば、万一不良品が出てもメーカーが悪いので小売店に責任は無いと言えますが、ジュエリーでは言い訳はききません。検品の全責任は小売店にあるのです。不良品を売ったならば、お客はその小売店からは二度と買わないでしょう。 ジュエリーを身につけるのは、「美しいね」と言われたい、「センスが良いね」、「良い物を着けてるね」とほめられたいからです。安物では他人はほめてくれません。ほめられれば、またほめられたくなって、もう1個ジュエリーを買いたいと思うのです。そうすれば一生懸命売り込まなくてもお客は店に来てくれます。
予算の許す範囲で良い品物を売るのがジュエリー・マーケティングの基本だと思います。
5. 利益率より回転率
安い物を一生懸命探している小売店の方が当店に来られますが、当店には有りませんし、そういうものをお奨めしません。安かろう悪かろうの商品を売っていては商売として長続きしないと思います。まして、利益率ばかり追求する小売店は論外だと思います。
ジュエリーは衣料品と違って、流行のサイクルがそれほど速くはありません。流行ばかり追いかけていくよりも、ベーシックなもの、オーセンティックなものを中心にして、いつ身につけても飽きの来ない商品を売らなければなりませんが、それでも2年も前の商品を陳列していては店が古びて見えます。
現在の消費者は賢い人たちです。他店と必ず比較しています。高い値段では売れません。むしろ他店よりも安くして、得をしたと思ってもらうことが重要です。利益率が半分ならば2倍売ればいいのです。その方が商品はいつも新鮮です。買おうと思っていた商品が他人に売れてしまった場合、お客は「しまった、早く買えばよかった」と思い、次からはすぐに買ってくれます。
6. マイナス情報も開示する
エメラルドやオパールはショックに弱いし、真珠や珊瑚は汗や化粧品に弱い。使って壊れたり、輝きがなくなってクレームを持ち込まれてから、そういったことを説明したら、お客はどう思うでしょう。「売る時ばかりうまいこと言って」と、お店に不信感を持つのではないでしょうか。たしかに、売るときにマイナス情報を伝えるのは勇気がいることです。しかしお手入れの説明という形で、販売が決まった後にでも説明することならできるはずです。
しかし本当はそれだけではありません。ルーペでないと見えないインクルージョンなどは、それがあるから値段が安いのだと説明しておかないと、お客が他の店に持っていって指摘されたら、欠点を隠して売ったと思われます。欠点を説明して買わない客には、もしその欠点がなければどのくらい高くなるかを説明してみるべきだと思います。それでも納得されないお客は、物の道理が分からないお客です。
7. お客が常に正しいとは限らない
「1カラットのアレキサンドライトが2万円でないか」と探しに来られる小売店さんがいらっしゃいました。「お客に言われたから」探しているそうです。一体全体2万円でどんな品質のアレキサンドライトがほしいのでしょうか。私は、「それは無駄な努力ですから、お客に説明すべきだ」と申し上げました。
お客に注文された物を一生懸命探す努力は必要ですが、お客の要求が常に正しいとは限りません。それは銀座の土地を一坪10万円でほしいと言っているようものです。
お客が正しい情報を持っていなければ、それを正しく直す適切なアドバイスが必要です。





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