- ジュエリー業界へのささやかな提言 -


全宝協問題を考える−2. 鑑別・鑑定会社の一本化を 2010/06/03
 今回の全宝協問題について、全宝協の鑑定書を使用していた業者にとっては大変な問題なのでしょうが、ジュエリー業界全体としては驚くほど静かな反応です。かつての中宝研問題やパパラチャ問題では賛否両論が巻き起こり、解決までに長い時間を要したのとは様変わりです。全宝協を擁護する意見は全く出ていません。
 それは多くの業者が既に全宝協の鑑定基準がおかしいことを肌で感じていたからではないかと思います。以前から業者の交換市では全宝協のソーティングは他社のと較べて一段低く評価されていることは、関係者ならば誰でも知っていました。
 しかし消費者は知ることはできなかったのです。購入したダイヤが実は低いグレードのものだったと言われたら、消費者の落胆は販売店のみならずジュエリー業界全体への不信へと変わるでしょう。
 ジュエリー小売市場がバブル時の3兆円から昨年は9283億円(日本ジュエリー協会調べ)にまで約7割も縮小しています。それに較べて鑑定鑑別会社数はほとんど減っていません。苦しい経営を続けていると噂されている鑑別会社も1社や2社ではありません。生き残りのため売上=鑑定鑑別数を優先するあまり、顧客の無理な要求を呑んでしまう誘惑に駆られることもあるでしょう。今回の全宝協も、その誘惑に抗しきれなかった例だと思います。
 鑑別会社が公正中立の立場で鑑別鑑定を行うようにするには、鑑別会社間の競争をなくすしかありません。つまり宝石鑑別団体協議会(AGL)メンバーが大同団結して一本化すれば、心ない業者から不当な要求があってもはねつけることができます。
 宝石の鑑別も昔は簡単な鑑別「器具」があればできた時代から、現在では高度な宝石処理技術が発達したため、非常に高価な鑑別「装置」が必要な時代になってきています。各社が装置を個々に導入することは無駄でもあるし無理でもあります。すでに高度な処理の鑑別が必要な宝石については、装置のない鑑別会社から大手の鑑別会社に依頼している実態があります。これを一歩進めて、鑑別会社の合同を考える時期に来ているのではないでしょうか。
 鑑別・鑑定の一本化はジュエリー業界の信頼回復にとって重要な問題です。日本ジュエリー協会(JJA)とAGLが一体となって、この問題に取り組んでもらうことを期待しています。

全宝協問題を考える−1. 業界団体の役割 2010/05/18
 5月15日付けの毎日新聞で全国宝石学協会(全宝協)が、業界団体の統一基準より意図的に「カラー」(色)を甘く鑑定し、価値をかさ上げしていたと報道されました。その後テレビ朝日や朝日新聞も追いかけて報道をしています。
 全宝協の高橋社長は「もともと当社の鑑定基準が厳しすぎたので、それを修正しただけ」と述べています。それならば、なぜ2008年10月下旬で止めてしまったのでしょうか?自分たちが正しいと思えば止める必要などなかったはずです。止めなければならなかった事情について、これは推測の域を出ませんが、所属している宝石鑑別団体協議会(AGL)から何らかのアクションがあったと考えるのが自然なのではないでしょうか?
 今回の報道のきっかけは、全宝協元社員から実名での告発文書がマスコミや関係団体に送られたからと言うことです。報道の1ヶ月以上も前に日本ジュエリー協会(JJA)にも届いていますから、宝石鑑別団体協議会(AGL)にも届いているのではないでしょうか。
 今回の福岡支所のカラー問題とは別に、2008年7月12日付けの消印で「全宝協大阪の無法グレード放置をもうやめよ!」という怪文書が当社に届きました。業界内では全宝協の鑑定について疑問に感じている人が以前からいたはずです。
 業界団体の役割とは何なのでしょうか。メンバーの利益擁護ではないはずです。JJAもAGLも「消費者保護」を目的に掲げています。そのためには消費者に対する積極的な情報開示が必要です。不祥事を内々に処理して事足れりとするようなやり方はもう通用しなくなってきています。
 宝石鑑別団体協議会(AGL)は日本ジュエリー協会(JJA)から加盟を要請されたときに、「鑑別機関は公正中立を旨としているので、業界団体には加入しない」と大見得を切ったはずです。しかし、パパラチャ問題のときもそうでしたが、今回も対応は後手に回っています。
 できることなら穏便に済ませたいと誰もが考えます。決断することは苦しいことであるのはよく分かっています。トップの決断により、路頭に迷う人もでる事が考えられます。しかし、放っておいたら更に多くの人が迷惑を被るようになります。ジュエリー業界の信頼が一時的に失墜することは間違いないでしょう。だからといって表面的な弥縫策を打ち出せば、消費者はますます離れて行ってしまいます。むしろ積年の膿を出す好機ととらえて、全宝協に対しては厳正な処分を行い、消費者からのクレームには積極的に対処することを期待しています。

ダイヤモンド小売進出10年にあたって 2010/02/26
 当社が一般消費者向けにダイヤモンドの販売を初めてちょうど10年が経ちました。おかげさまで売上高はこの10年間で約2.5倍になりました。ジュエリー市場全体が大きく縮小している中で健闘しているのは、お客様から高い評価を頂き、支持された結果だと考えております。
 特に最近では当社でお買い上げ頂いた方からのご紹介や、ネット上で当社のことを褒めて下さる方のご意見を参考にされてご来店頂く方が増えております。
 宝飾業界の方はよく「宝飾店は夢を売る商売」だと言います。私は「宝飾店は幸せを売る商売」だと考えております。「夢」と「幸せ」の違いは「すぐに消えてしまうもの」か「ずっと後まで残るもの」の違いです。
 私の大学時代の恩師である村田昭治先生は「今やCS(Consumer Satisfaction 消費者の満足)からCD(Consumer Delight 消費者の喜び)の時代になった」と言っています。世の中が豊かになった今、単に満足するというだけの製品やサービスではお客様はお金を払ってくれない時代になっていると思います。売る側はお客に感動したり喜びや幸せを感じられるものやサービスを提供していかなければならないと思います。
 海外有名ブランド店で0.2カラットのダイヤモンド指輪を35万円で買われた方が、買った直後は嬉しくて仕方がなかったのに、友達と較べてみたらあまりにも小さくて、もう有名ブランドの商品だったことなど心のどこかに消えてしまい、少なくとも友達と同じ大きさのダイヤモンドを買えないかとご相談に来られたことがありました。
 2年前までは、当社の価格が安いと分かってはいても、やはり有名ブランドの指輪がほしいからと言われる方も結構多くいらっしゃいましたが、最近では「ブランド物は高いだけだから」と仰る方が圧倒的に多くなってまいりました。
 1つは欲しかったブランド物も、買ってみれば価格と価値の落差に気がつく人が多くなってきているのではないでしょうか。ブランド品が高価格を維持するには、当社などとの違いをはっきりと消費者に示さなければならないでしょう。
 百貨店の売り上げ減少は止まりません。ビジネスモデルとして成り立たないとさえ言われています。現在では何かを買おうと思ったらすぐに「価格.com」で比較する時代です。定価で販売するなら、厳選された品質の商品とともに、卓越した商品知識、他に類を見ないような行き届いた接遇をはじめとする濃厚なサービスが必要なのに、店員教育に力を入れているとは思えません。これでは誰も百貨店で買おうとは思わないでしょう。
 百貨店は不動産業と同じだという意見もあります。テナントを入れてその賃料収入で食べているということです。そのため、自分自身のリスクで仕入れて販売しないため、顧客が求めているものを的確につかめていないから、どんどんとお客が離れてしまっていると言われています。これは宝飾業界にも言えることです。大手の小売店はメーカーからの在庫委託を店頭に並べて販売するだけですから、顧客が本当に求めているものを作らせて売ることができません。欲しいものが無いお店にお客は行きません。
 ネット上でダイヤの価格を公表している会社も増えてきました。その価格も当社とほとんど同じになってきています。このような中、一般の宝飾店で売上を確保しているのは催事販売に力を入れているところだけです。でも催事販売は結局のところ無理に売っているだけではないかと思います。本当にお客様の幸せを売っているのではないと思います。
 最近では「国民の目線で」とか「消費者の目線で」という言葉を聞くことが多くなりました。当然のことが忘れられていたのではないのかと思います。
 当社が小売に進出してから、おかげさまで10年やってこられました。これからも「お客様の幸せ」を忘れずにがんばってまいりますので、ご支援をお願い致します。

リーマン・ショックの影響は長くは続かない 2009/03/01
 2008年3月のベアー・スターンズ破綻に端を発し、同年9月15日リーマン・ブラザーズの倒産をきっかけにサブプライムローン問題が世界的に拡大して、いわゆるリーマン・ショックが起きました。世界の企業は大幅な生産調整、人員削減を余儀なくされ、世界同時不況が起きました。世界恐慌の再来とも言われていて、世界景気の回復には10年以上かかるという悲観的な見方が大勢を占めています。
 世界の物価もインフレから一転してデフレに陥り、ダイヤの国際価格も今年に入って大粒石から下落傾向を鮮明にしてきています。まもなく1カラット以下の小粒石にも波及してくることでしょう。
 今年の新年会ではどこでも、会う人はすべて非常に暗い見通しを述べるか、いつになったら景気が良くなるか分からないと言うかのどちらかでした。
 私が注目しているのは、世界各国政府がきわめて迅速に大型の景気対策をうっていることと、各企業もきわめてラディカルにリストラを進めていることです。一刻の猶予もないといった感じで逡巡していません。これだけの対策が効かないはずはありません。
 中国やインドなどの新興国も影響を受けていますが、比較的早くに立ち直ると予想されます。かつて日本の高度成長時代、アメリカなど当時の先進国が軒並み不況に陥っていても、日本だけはすぐに立ち直りました。
 経済成長の最も大きな要因は技術革新です。中国やインドなどは成長への離陸が始まったばかりです。まだ発展していない中国の内陸部にも技術革新の波が押し寄せ、全体として成長を加速させていくはずですから、今回の世界同時不況を乗り越えていくものと考えられます。
結局、世界経済は中国やインドに引っ張られるようにして回復していくはずです。もちろん、急速に回復していくことはあり得ないと思いますが、10年もかかるようなことはないのではと思います。

大手もダイヤ・ジュエリー価格を大幅引き下げ 2008/05/27
 田中貴金属ジュエリーと三菱マテリアルが相次いで割安なダイヤモンド・ジュエリーを発売しました。従来の価格設定からすると驚異的な低価格です。現在は種類が限定されていますが、将来的には大幅にラインアップを増やしていくものと思われます。
 結局、ダイヤモンドのように4Cで価格が比較できる商品を、付加価値を付けて販売していくことが難しくなっているからでしょう。
 私の持論ですが、高利益率の商品には必ずディスカウンターが現れ、利益率が下がります。過去においても眼鏡がそうでした。
 宝石は夢を売る商売だから高いのは当たり前という業界の常識は通用しなくなってきています。適正な価格で販売しなければならないし、低利益率で経営できるようにしなければならない時代が来ていると思います。








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